株式会社 スズアコーヒー店営業部長　鈴木雄介

スズアコーヒーは人々が生活の中でコーヒーを飲む文化がまだなかった時代の1956年、小田原で開業した。今でこそ箱根や熱海の旅館やホテルにコーヒーを卸しているが、当時の旅館では、西洋の飲み物とされるコーヒーを仕入れるところは少なかったため、地元の喫茶店に多くコーヒー豆を卸していたという。

1960年代に突入すると、高度経済成長によりゴルフ場やホテルなどが増え始めた。箱根は日本を代表する観光地へと成長し、コーヒーを飲む文化も普及。スズアコーヒーは旅館やホテルなどを中心に販路を拡大していった。

旅館やホテルへの卸が多いため、料理の締めを飾るホッとするようなコーヒー作りを目指しているスズアコーヒー。焙煎を担当するのは３代目となる鈴木雄介氏だ。卸のコーヒー豆はブレンドが多く、同社の味に惚れ込んだ各料理長と一緒に、テストを重ねながら作っていく。味にシビアな料理長たちから支持されるのは、要望に対して細やかに対応できるコーヒー作りによるもの。

例えば、ある旅館で「オリジナルブレンドを作って欲しい」という依頼が来た時には、コーヒーを飲むターゲットは誰か、どんなパッケージで販売するのか、このコーヒーを飲んでどんな気分になってほしいのか、など細かなヒアリングを行い、要望のコストに合わせてオリジナルブレンドを作る。若者からお年寄りまでさまざまな世代が訪れる箱根。各卸先に合わせた商品を作れることは同社の強みだ。

店の中で行われていた梱包作業を見ると、同社ではコーヒー豆を卸す際に真空パックにして納品していることに気づく。衛生的かつ、鮮度や品質を保てること、そして真空状態にすることでパッケージの形が四角くなり卸先の棚で管理がしやすいと、好評だそうだ。

ふとパッケージの表面に目をやると、店名やロゴにくわえて「○○様」と宛名を書く欄がある。昔からある宛名欄には、今でも1パックずつお客様の名前を書き入れているという。細やかであたたかな心遣い。そこには創業時から世代を超えて引き継ぐ「長いお付き合いを大事に。心と心のコミュニケーションを大切に」という同社の理念を見ることができた。